先日、珍しい石を仕入れました。
「リヒテライト」という名前で買い付けた、青色の美しい石です。
リヒテライトは角閃石(かくせんせき)グループに属する鉱物で、ナトリウムとカルシウム、マグネシウムを含みます。
モース硬度は5〜6。
名前は1865年、ドイツの鉱物学者テオドル・リヒター氏にちなんで名付けられました。

産地はカナダ・アメリカ・スウェーデン・ミャンマー・オーストラリアなど。日本国内でも愛媛県や岩手県で産出例があります。
流通量は多くなく、天然石としてはかなり珍しい部類に入ります。
珍しい石が好きな身としては、迷わず買い付けたんですね。
初めて扱う石種だったこともあり、いつも以上に楽しみにしながら鑑別に出しました。
そして返ってきた結果を見て、目を疑いました。
「天然クォーツ/ デュモルチェライトインクォーツ」
リヒテライトではありませんでした。3本まとめて鑑別に出しましたが、3本とも同じ結果です。
1本だけの偶然ではなく、そもそも仕入れの時点でリヒテライトではなかった、ということになります。

似ているようで、中身はまったくの別物
デュモルチェライトインクォーツは、水晶(クォーツ)の中にデュモルチェライトという青色の鉱物が針状に入り込んだ石です。
名前はフランスの古生物学者、ウジェーヌ・デュモルティエ氏に由来します。
深いブルーの発色は、含まれる微量の鉄とチタンによるものです。
当店でも過去に何度かご紹介してきた、なじみのある石種です。
見た目の色味だけを見ると、確かによく似ています。
青系の色合いに、内部にモヤっとした線状の模様が見える点も共通しています。
ですが中身の成分はまったく違います。
| リヒテライト | デュモルチェライト | |
|---|---|---|
| 分類 | 角閃石グループ(アンフィボール) | ホウ素を含むアルミニウム珪酸塩鉱物 |
| 主な成分 | ナトリウム・カルシウム・マグネシウム・鉄 | アルミニウム・ホウ素・ケイ素 |
| モース硬度 | 5〜6 | 8〜8.5(クォーツ部分は7) |
| 名前の由来 | 鉱物学者テオドル・リヒター氏 | 古生物学者ウジェーヌ・デュモルティエ氏 |
| 主な産地 | カナダ・アメリカ・スウェーデン・ミャンマー・オーストラリア等 | ブラジル・マダガスカル・ナミビア等 |
成分も結晶構造も、まったくの別物です。硬度だけを見ても2〜3ランクの差があります。
それなのに、なぜ「リヒテライト」として流通してしまったのでしょうか。。。
なぜ間違って流通したのか
鑑別結果を受けて考えられる原因は、大きく3つです。
- 見た目だけで判断され、検証が行われていなかった ―― 色や質感が似ていたため、詳しい鑑別をせずに「リヒテライトだ」と判断されてしまった可能性
- 伝言が途中でねじれた ―― 以前は本当にリヒテライトが同じ産地・同じロットで取れていて、「前回と同じだから」という思い込みが引き継がれてしまった可能性
- 珍しい石として高く売るための意図的な偽装 ―― リヒテライトは希少で高価買い付けできるため、似た石をそう呼んでしまった可能性
正直なところ、私としては1番と2番が濃いと見ています。
海外の買い付け現場では、聞けばきちんと「これは偽物です」と教えてくれることも多く、最初から騙すつもりのケースはそう多くはない、というのが実感なんですよね。
ただ、今回の一件がどの理由だったのかを完全に断定することはできません。
石の世界で、こうした「入れ違い」はなぜ起きるのか
天然石の世界では、こうした入れ違いは今回に限った話ではありません。
ビーズは、原石ごとに一粒ずつ丁寧に分けて作られているわけではないことが多いのです。
工場では複数の原石をまとめて機械に入れ、まとめて磨き上げてから、最後に仕分けます。
似た色・似た質感の石が違う原石から生まれていても、仕分けの段階でまとめて扱われてしまうことがあります。
だからこそ当店では、珍しい石や気になる石は鑑別に出して確かめるようにしています。
仕入れの時点での思い込みや伝達ミスは、どれだけ気をつけていてもゼロにはできません。
大切なのは、間違いが起きないことよりも、間違いに気づいたときにきちんと検証し、正しい名前でお届けできるかどうかだと考えています。
「偽物」とは何か、という問い
ここで考えたいのが、「これは偽物と言えるのか」という問いです。
石そのものは天然クォーツで、間違いなく本物です。ガラスでも合成石でもありません。染色もされていません。鑑別書もその通りに出ています。
ただし、「リヒテライト」という鉱物名としては、まったくの誤りでした。
当店の考えでは、合成石やガラス、染色処理をした石を天然石だと偽ること、そして意図的に別の鉱物名を名乗らせることは偽物にあたります。
今回のケースは、天然石であることに嘘はありませんが、鉱物名としては別物を名乗っていた、という点でアウトだと判断しています。
一方で、これは「騙そうとして偽装した」というより「間違って伝わってしまった」可能性が高いというのが当店の見立てです。
偽物という言葉ひとつをとっても、意図があったかどうかで受け取り方は変わってきます。
実際、「本物ですか?」というご質問はよくいただきます。
ですが、この問いへの答えは一筋縄ではいきません。
お店ごと、お客様ごとに「本物」の定義そのものが違うことがあるからです。
だからこそ当店は、「うちはこう考えます」という基準をはっきり示したうえで、鑑別書という客観的な根拠を添えてお届けすることを大切にしています。

お店選びで大事なのは、間違えないことより「その後」
石の世界では、鑑別してみたら思っていたものと違った、という話は珍しくありません。
SNSでは、鑑別結果を巡って話題になることも、ときどき見かけます。
大切なのは、間違いが絶対に起きないお店を探すことよりも、間違いが分かったときにきちんと対応してくれるお店かどうかだと考えています。
返品に応じてくれるか、事情を説明してくれるか。
天然石は工業製品ではないぶん、こうした「その後」の姿勢が信頼につながります。
当店としては、怪しいと思ったら調べる、調べて違っていたら正直にお伝えする、という姿勢を続けていくつもりです。
なお、リヒテライトの本物については、来週のライブで比較しながらご紹介する予定です。
「あ、これは確かに似ている」と思っていただけるはずです。
今回の主役、デュモルチェライトインクォーツについて
今回の「まさかの正体」だったデュモルチェライトインクォーツは、透明感のない不透明な質感で、クォーツの中にデュモルチェライトがぎっしりと詰まっています。
色はアズライトのようなマトリックス系の深いブルー。
艶やかな磨き上がりの品を、鑑別書付きでご紹介しています。
このタイプで「デュモルチェライトインクォーツ」の鑑別がでるのも珍しいと思います。
「まさかの正体」も含めての一本として、気に入っていただけたなら何よりです。

動画でご覧ください
今回のライブでは、この「偽物」の顛末を実際の映像でご紹介しています。
鑑別結果を開封する瞬間の反応や、視聴者の皆様に「これは何だと思いますか?」と問いかけたやり取りなど、文章では伝えきれない空気感も含めて、当日の様子はこちらからタイムスタンプ付きでご覧いただけます。
リヒテライト登場〜偽物疑惑のはじまり(28:07)
鑑別結果発表:まさかのデュモルチェライトインクォーツ(33:37)
リヒテライトとデュモルチェライトの違いを解説(40:10)
なぜ間違って流通したのか、原因を考察(43:25)
「偽物」の定義とは何か(51:01)
































コメントを残す